ひまわり信託ニュース
2015年1月21日 | 信託銀行さん 暦年贈与に関する信託商品と「持戻し免除」の疑問点
信託銀行さん 暦年贈与に関する信託商品と「持戻し免除」の疑問点
「後継ぎ遺贈」についてご説明する前に,「信託銀行さん」というエントリでご紹介した暦年贈与に関連する信託商品についてコメントしておきたいと思います。
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三井住友信託さんも商品化をされたものがどういう仕組みかまだ詳細は存じ上げないのですが,先行した三菱UFJ信託さんの商品「暦年贈与信託「おくるしあわせ」」では,どれだけこの信託に託せるかについて,次のようにされています(本日現在のホームページの「商品概要説明書」より)。
最高受託金額
●3,300万円
ただし、当社が所定の方法により算定した金額が3,300万円を下回る場合は、当該金
額を最高受託金額といたします。(贈与する方の相続が開始した際に、他のご相続人の法令上の権利(遺留分といいます)を侵害してしまう場合がありますので、信託金額をご相談させていただいております)なお、3,300万円を超える金額で信託設定を希望される場合には、当社が所定の方法により算出した金額を最高受託額とします。
信託銀行さんが受託する場合,法的紛争に発展する可能性のあるものは回避しなくてはならないので,「遺留分」を侵害しないようにすることが必須です。
それをここで示されているのですが,私が分からないのは,この暦年贈与を使って生前贈与したものについて,「持戻し免除」(民法903条3項)がどうなっているかなのです。
生前贈与をされる方の多くは,生前贈与したものはあげたお子さんにプラスアルファとしてあげる考えのことが多いでしょう。
たとえば,1500万円の財産があって,3人のお子さんのある人が,あるお子さん1人に生前贈与を繰り返して300万円を贈与済とします。
その後1200万円を遺産として相続がはじまったときに,この残りの1200万円をどう分けて欲しいか。
300万円をお一人にあげたことにはなにかの理由があるので,残りを三等分してほしいと思っている可能性はままあります。Aさんは300万円+1200万円÷3=700万円,BさんとCさんが400万円ずつ,ということです。
しかし,このような,生前贈与は別枠計算という考えを表明しておかないと,一人500万円,生前贈与を受けていた人は300万円を引いた残り200万円をもらえるだけ,というのが法律の考えです。
贈与した人は,300万円上げた人には1200万円の3分の1の400万円を更に相続してもらい,ほかの二人には400万円ずつと思っていても,当然にはそうならないのです。
これを「特別受益」とその「持戻し」というのですが,いや,300万円は戻さないで,としておくことも認められており,これを「持戻し免除」といいます(民法903条3項)。
この「持戻し免除」は,はっきり意思表明しておくべきですが,裁判所の考えでは,いろいろな状況を見て,暗黙にそう言っていると思われる(これを「黙示の持戻し免除」といいます)として,贈与した人の意向を汲むようにしていることもあるのですが,はっきりしておくのに越したことはありません。
信託銀行さんの暦年贈与に関する商品において,この持戻し免除をするかどうかの確認をしているのか,いまひとつ分かりません。
相続税節税といっても,誰かに生前贈与する形を取る以上,何か考えがあるはずです。
贈与をされる方は,それをはっきりさせて,持戻し免除をするのかしないのか,意識して表明しておかれるようにしたほうがよいと思います。
信託銀行さんもその点の記録が残るような仕組みを導入されたほうがよいと思うのですが,いかがでしょうか(すでに導入されていたら済みません)。
(文責:伊東大祐)